チェック☆

2011/03/30

ニューヨークのとけない魔法  岡田光世


ニューヨークのとけない魔法  岡田光世
¥620(送料無料)




文藝春秋
2007年2月発行
334ページ



女性らしい素敵な表紙にまず引き込まれました。

タイトルは英訳すると"Under the Spell of New York"。

ニューヨークのとけない魔法」の中には、岡田さんのミニ体験談がいくつも散りばめられていると同時に、使える英語表現も紹介されています。

エッセイだけれど、英語の勉強にもなる1冊です。

そして、読み始めから読み終わりまで、くすっと笑えたり、じーんとしたり、ほっこり気分になれたり、とにかく心が温まる文章。

岡田さんのお人柄もあってこその体験談に、こちらもワクワクしてしまうのです。

book ranking


アメリカでは、行動を起してみると希望がかなう、という体験」を、岡田さんは何度もしたといいます。

原則として外国人留学生は奨学金を受けられないことになっているニューヨーク大学へ、「奨学金つき」で入学願書を提出したらあっさり合格通知が送られてきたり、

取りたい授業がとれなくて残念だともらしたら、相手から推薦状を書いてもらえ、私からも離してみるからと言われ、例外で受講が可能になったり、

Ask and you'll receive.(求めよ、さらば与えられん。)
If you want it,go for it.(ほしければ、手に入れろ。)

という社会なのですね。

マンハッタンの食品雑貨のとあるオンライン・ショップでは、なんと自分で値段を決められるというのです。ほしい商品を何割引で買いたいかまず選択し、同意すれば売買が成立するという仕組み。

個人の主張を尊重するというか、主張が強い人間が集まっているからこそできたシステムというか。日本だったら値引き交渉する人もいるでしょうが、たいていの人間は言い値で買い物をしますよね(私もですが)。国の違いを感じます。

国の違いといえば、思わずぷぷっと笑ってしまう話もたくさんあるのです。

例えば、岡田さんの夫が地下鉄で体験したことの数々。

The Road Less Traveled というベストセラー本を読んでいたら、隣の女性が「大学の宿題?それとも趣味?それすごくいいわよね。彼のほかの本も良かったわ。」と話し始め、しまいにはバッグから紙とペンを取り出し、読むべき本リストを書いて渡してきたというのです。

そして、今度自分を見かけたら感想を聞かせてと言い残し地下鉄を降りて行ったそう。

別の日には、やはり地下鉄で本を読んでいたら、眠くてたまらないから、どこそこの駅に着いたら起こしてくれる?と頼まれごとをしたり。日本人ならではの責任感か、彼の人柄か、乗り過ごさせては大変と気が気でなく、結局読書には集中できなかったとか。

ちらちら自分を見てる黒人男性がいるなと気にしていたら、にこにこしながら近寄ってきて、君の似顔絵を描いたんだ、よく描けてるだろう?と結局それを買わされるはめになったり。

ニューヨークの地下鉄は、何事もなく静かに乗っている、という日本ではごくふつうのことが叶わなそう。

岡田さん自身も、カフェでコーヒーを飲みながらも必死でパソコンに原稿を打っていたら、「ねえ、この中でどれが一番、私に似ているかしら?」と3つの似顔絵が描かれた紙を手渡される、なんて経験をしています。

話しかけてきた女性は、その後岡田さんの似顔絵を描き始めるという。そして最後には、さっさと持ち物をまとめて去っていったという。

人の時間に割り込むことになんの躊躇もないのも時にはどうかとも。悪気がないのでしょうけれど。あ、そう考えるところが日本人的なのかしら。

寛大だなと驚いたのは、マンハッタンのBarnes & Noble という本屋さん。岡田さんお気に入りの場所だそうですが、こちらのお店、購入した本を汚して返品してもOKだというのです。取り寄せを頼んだ本についても、目を通して気に入らなければ買わなくていいというのも、日本では聞いたことがありませんよね。

そんなことで商売になるのか店長に尋ねたら、お客様に足を運んでもらうことが大事なのだと答えたそう。懐が広いといえばいいのでしょうか、びっくりです。

確かに10年以上前の話ですが、アメリカの本屋さんで、破れたり汚れたりしている本がセールでかご売りしていたのを思い出しました。なるほど、一度読んで返品したものを、そのように安く売っていたのかもしれませんね。

ニューヨークは、ふつうに暮らしていても、他人とのふれあいがとにかく多い街なのだなという印象を受けます。人と触れ合えば、そこから生まれる優しさにもたくさん触れられるわけで、心が温まるエピソードもたくさん紹介されています。

岡田さんが留学生の頃、本棚を手作りしようと、ソーホーで木材の切れ端をもらい、コンクリートのブロックをもらい、その重さによろけていると、後ろから声をかけられます。

車椅子に乗った男性が、自分のひざにブロックを乗せてアパートまで運んでくれたといいます。「でも、これ、重たいから」とためらっている岡田さんに、「だから僕なら、すぐに運べるだろ。」

It's a piece of cake.(お安いご用だよ。)

と答えてくれたそう。アパートの前まで来ると、「それじゃ、よい週末を。さよなら」と何事もなかったかのように去っていった彼。

こういう出来事は、日本だとことさら「他人に親切にする」と際立って見えてしまいますが、車椅子の彼は実にスマートにさりげなく手伝ってくれたのですね。こういう人間が多いなら、ニューヨークはなんて素敵な街なのでしょう。

東北・関東大震災のように、特殊な環境化に置かれると、私たち日本人の思いやり精神は発揮されるけれど、日常生活においては他人との距離を取ろうとするのが一般的。ふだんから親切にすることが当たり前の文化というのは素敵です。

お安いご用だよ、というフレーズが、「ケーキのかけらみたいなもんだよ」という表現だというところも重ねて素敵。

言葉という形に表現される優しさもたくさんあります。

アメリカ人がよく使う表現に、Bye,now.というものがあり、これは、Bye.の代わりだそう。岡田さんはこの表現に「名残惜しさのような温かさ」を感じるそう。

別れ際、いつの日か使ってみたい言葉だなと思いました。

温かくユーモラスな話ばかりではなく、宗教や人種差別、ホームレスについても少し書かれていて、他民族国家の側面をリアルな体験から浮き彫りにしています。

「ニューヨークのとけない魔法」は、最初に単行本が出て、私が読んだ文庫版は2007年に出版されています。文庫のあとがきは2006年12月となっていますから、今から5年近く前のもの。

ニューヨークという街自体は多少様変わりはしたでしょうけれど、人間のにおいのようなものは今も昔も変わっていないのではないかと思います。

この本を読んで困ってしまったことがひとつ。

それは、今すぐニューヨークに行ってみたい!と強く思ってしまったことでした。

とりあえず、今年1月に出版されたばかりの岡田さんの新刊「ニュ-ヨ-クの魔法のことば」を近々読んで、気分だけでもニューヨークに浸りたいです。


岡田光世さんプロフィール

1960年東京生まれ。
青山学院大学卒業、ニューヨーク大学大学院修士号取得。
読売新聞米現地紙記者を経てノンフィクション作家に。
高校、大学時代に1年間ずつアメリカ中西部に留学し、1985年よりニューヨークに住み始める。
今も東京とニューヨークを行き来しながら執筆を続けている。

岡田さん著書(一覧
  
book ranking